心臓の悪いわんちゃんの歯科処置

今日は心臓の悪いわんちゃんの歯科処置を行いました。

小型犬では最も多い僧房弁閉鎖不全症という心臓病です。

心臓の中の左心房と左心室という二つの部屋の間にあるのが僧房弁と言います。

僧房弁は左心房の血液は左心室に流し、左心室からは左心房に血液が流れないようにしています。

その弁がうまく機能しなくなって血液が逆流してしまう病気です。

多くの場合は内科治療で重篤な肺水腫(肺の中が水浸しになる)などが出にくくする治療を行います。

僧房弁閉鎖不全症は急に起きるわけではなく、徐々に進行していく病気です。

初期には何も症状を出しません。

徐々に進行するにしたがって動くとしんどい様子が出たり、咳が出始めます。

進行の度合いはその犬によって異なりますので、寿命まで生きるわんちゃんもいます。

逆にどんどん進行して肺水腫や心不全で亡くなる子もいます。

 

今回処置を行ったわんちゃんは、咳の症状がある僧房弁閉鎖不全症のわんちゃんです。

8歳の男の子です。体重は約4㎏です。

心臓が悪いという場合麻酔がかけれないと思いがちですが、すべての犬でかけれないわけではありません。

この子の場合は逆流の程度は中程度で、不整脈もなく血圧も維持していました。

また運動不耐性もない状態でした。

もちろん何も病気がない子に比べればリスクは高くなります。

お口の状態は麻酔をかけずに観察した状態では犬歯の歯茎が後退しているのが見えました。

歯石の量は中程度で口臭はそれほどありませんでした。

 

この子の場合考えないといけない事は

①僧房弁閉鎖不全症は進行性で今後麻酔のリスクはどんどん上がる

②今の時点で歯周病の進行がどの程度かは不明(麻酔下で検査をしないとはっきりわからない)

③歯周病はほっておくと進行する。歯がぐらついて食べにくくなったり、歯周病による炎症が体に悪影響を及ぼす。場合によっては心臓病の悪化の要因になるかもしれない。

これらの事を飼い主様と相談して、歯科処置をすることになりました。

下の写真のように犬歯や奥歯の歯茎は腫れていました。

歯石もついています。

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通常どおり歯周ポケットの検査を行い、必要な部位のレントゲンを撮りました。

幸い重度の歯周炎を起こしている部位はほとんどなく抜歯に至る歯はありませんでした。

ただ、下顎の前歯(切歯)は叢生(歯並びが悪い)でした。

また上の前歯は回転歯で、歯根も曲がっていました。(黄色の矢印)

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下のあごの全臼歯は数が足りず(欠如歯、欠歯:矢印)、乳歯の遺残(丸で囲った歯)も見られました。

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SRP(スケーリング、ルートプレーニング)を行い無事終了しました。

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今後頑張って歯磨きをしていただき、歯周病にならないようにケアをしていただくようお伝えしました。

〈症例の記録〉

  • ミックス
  • 8歳
  • 去勢 男の子
  • 4㎏
  • 基礎疾患:僧房弁閉鎖不全症、椎間板ヘルニア
  • 処置:SRP
  • 麻酔の状態:安定
  • 処置時間 1時間20分
  • 使用機材
    • モリタ歯科ユニット
    • モリタエックス線装置
    • ウッドペッカー超音波スケーラー 歯肉縁下チップ装着
    • ケアストリームデジタル歯科レントゲン(イメージングプレート)

 

 

 

 

 

小型犬の歯周病

わんちゃんのお口の隅々まで見ていますか?

今回処置をさせていただいたわんちゃんは前の方の歯は比較的きれいだったのですが、

後ろの方の歯が歯周病で抜歯が必要になったわんちゃんです。

ポメラニアンやチワワなどの顔が小さいわんちゃんでは、一番後ろの歯とほほの内側にほとんど隙間がないわんちゃんがいます。

そのような子はその部分に歯垢が滞留しやすく歯周病になっていることがあります。

この部分は頑張って唇を広げて見ないと観察できません。

この子のように前の方の歯が比較的きれいだとより発見が遅れる事があります。

幸いこの子は定期的に当院を受診されていましたので、大事な上の第四前臼歯といわれる歯を失う前に処置をすることができました。

小型犬を飼われている方はぜひ定期的にチェックをしてもらいましょう。

 

今回処置を行ったのは2歳のポメラニアンです。

まだ2歳ですが歯周病がありました。

犬歯は歯肉炎はありますが、歯石はごく軽度です。

しかし奥歯の歯茎は腫れて、赤黒くなっています。

また歯石も多く、歯と歯茎の隙間に白いねばねばした歯垢がついています。

口臭は軽度で、近づいて臭わないと感じない程度でした。

麻酔をかけてプロービングで歯周ポケットの深さをチェックしました。

この部位で約5㎜の歯周ポケットがありました。

レントゲンは分かりにくいですが歯槽骨の垂直骨吸収が見られます。

近心口蓋根の歯根長の2/3以上に及んでいます。

写真の右側の歯の根っこの周囲の骨が溶けている状態でした。

犬の歯では特に写真の左側の歯が大事になります。

この子は歯磨きが今のところできないわんちゃんでした。

右側の歯を残しておくと歯周病が広がり左側の歯がダメになってしまいます。

その為右側の歯はぐらついてはいませんでしたが抜歯をすることにしました。

 

まず、局所麻酔を行います。

歯石を取った後、歯と歯肉の付着をメスで切開します。

この歯は根っこが三つある三根歯と呼ばれる歯です。

それぞれ一個の根っこになるように歯を切っていきます。

歯周病が重度の根っこは歯を分割するだけでグラグラしますのでそのまま抜去します。

また歯周病がほぼない根っこはエレベーターと呼ばれる器具でグラグラするまで歯を支える靭帯を切っていきます。

全部の歯が抜けたら抜いた穴をきれいにして歯ぐきを寄せて傷を閉じます。

 

他の歯も歯石を除去し、歯肉の裏側の歯石などを取りました。

しっかり研磨して歯石の再付着を防いでいます。

最終的にはこのようになっています。

ちなみにこの子は7か月の時に歯並びの調節の為に上の前歯は左右一本ずつ抜いています。

 

本来ならこれ以上歯周病が進行しないようにするために歯磨きが必要です。

ただ、今この子は口の周りを触ると怒るそうなので歯磨きはできないとのことでした。

そこで、とりあえず何もしないよりは効果は低くてもできる事をするために歯磨きガムを試してもらうことにしました。

歯磨きガムに関してはまた改めて詳しくご紹介しようと思いますが、

使い方、選び方を理解して使えばある程度の効果は期待できます。

特にこのように奥歯だけが汚れやすい犬は歯ブラシと併用することでより効果的です。

この子はオーラベットのXSを試してみてもらう予定です。

 

まとめ

・小型犬は若い時でも歯周病になっている場合があります。

・こまめにチェックが必要です。

・見えるところが大丈夫でも見えないところが悪い場合があります。

 

〈本症例の記録〉

ポメラニアン

2歳10か月

2.5㎏

女の子

病名:歯周病

処置:抜歯(209)、SRP

麻酔時間: 1時間30分

麻酔状態:安定

周術期の疼痛管理:メロキシカム、リドカイン

当日退院

 

子犬の歯並びについて

*閲覧注意 少しですが抜歯の際の出血がある写真があります。

 

犬を飼うといえばほとんどが小型犬になってずいぶん経ちます。

トイプードルをはじめとして、ヨーキー、ポメラニアンなど小型犬種では

乳歯遺残などによってかみ合わせが悪い場合がよく見られます。(不正咬合)

また、上下のあごの長さのアンバランスからくる不正咬合も良く見られます。

 

特に犬歯の永久歯が不正咬合を起こすと、上あごの歯茎や粘膜に傷をつけたり、

他の歯と過剰に接触して歯が削れる問題を起こすことがあります。

何らかの対処をしないとわんちゃんが不快な思いをしたり、歯を失う事もあります。

 

対処の方法はその状態に合わせて様々ですが、乳歯が生え変わるタイミングが最も選択肢が多くなります。

逆にそのタイミングを逃した後では多くの努力が必要になってきます。

具体的な方法としては

・乳歯をタイミングよく抜歯

・干渉する前歯を抜く

・生えてきてすぐの永久歯をずらして固定する(外科的矯正)

・永久歯の干渉する部分を切る(生活歯髄切断 せいせつ)

・様々な矯正

等の方法があります。

 

今回処置した症例をご紹介します。

下のあごの犬歯が前方やや内側に生えて上のあごの前歯の内側にあたっている子です。

このままだと歯ぐきが炎症を起こす可能性があるため、去勢手術と同時に歯の処置を行いました。

 

この子は最初のワクチンなどから継続的に来ていただいており、

その時から乳歯の生え変わりのタイミングで歯の問題が起きる可能性をお伝えしていました。

来院された時にはもうすでに下の犬歯は抜けてしまっていました。

このように下の永久犬歯が上の前歯の裏にあたっています。

下の写真は正常な咬み合わせです。

この時点で上の永久犬歯は上の乳犬歯の長さの1/2ほど萌出していました。

乳歯の脱落が起きるのは永久歯が乳歯の長さの2/3ぐらいまでなので、

上の犬歯の問題だけであればもう少しだけ様子を見ても良い状態です。

ただし下の永久犬歯を外科的矯正という方法で移動させるのであれば

この時点ですぐに処置をした方がよい状態でした。

ただ、飼い主さまの予定がどうしても合わず2週間後の処置になりました。

下はその時の写真です。

上の永久犬歯が乳歯の2/3の長さを超えても乳歯が残っているため

上の乳犬歯の脱落は遅れています。

この時点で飼い主様がなるべく一回の処置で歯並びをよくしたいとのご希望がありました。

その為、この子は犬歯が当たる上の両側の前歯を抜歯してスペースを作り、

下の犬歯を軽く脱臼させて移動する外科的矯正を行うことにしました。

処置後はこのように干渉しない状態になっています。

10 日後のチェックでは下顎犬歯もわずかに伸びてますが干渉を起こさず咬合しています。

子犬のこのような不正咬合はタイミングが重要になります。

一生の問題であり、タイミングを逃すと手間が増えることがあります。

5か月ごろからしっかりチェックをしてもらって適切に治療をしましょう。

 

〈本症例の記録〉

不正咬合 クラスⅠ

処置:永久歯抜歯(103.203)、乳歯抜歯(504.507.604.607)、外科的矯正(304.404)

麻酔時間: 30分(去勢含め約1時間)

麻酔状態:安定

周術期の疼痛管理:メロキシカム、リドカイン

 

 

若齢で重度歯周病に罹患したわんちゃん

当院で処置を行った3歳のトイプードルの子のお口の写真です。

いきなりですが皆さんこの歯の状態をどう思われますか?

これが抜歯が必要な歯と思った方は少ないのではないでしょうか。

しかし、この歯は抜歯が適応となる重度の歯周病に侵されていました。

飼い主様は歯ブラシやガーゼでお口の手入れをされていましたし、

わんちゃんも元気な生活を送っていました。

診察の時に口臭があったため歯科処置をご提案したのですが、

処置をしてみると見た目以上に歯周病が進行していました。

この歯のレントゲンがこちらです。

この歯は根っこが三つに分かれている三根歯という歯です。

この根っこの分かれ目の部分の骨が溶ける根分岐部病変がありました。

この根分岐部病変は1~3度まで三段階に分けられます。

 

この子は近心口蓋根および近心頬側根の間が3度でした。

また歯根の1/2以上の骨吸収もあります。

一般的に3度の根分岐部病変を持つ歯は抜歯対象となってしまいます。

 

皆さんは飼われているわんちゃんは若いから歯周病は大丈夫と思ってないでしょうか?

またオーラルケアをしているから大丈夫と思ってないでしょうか?

特に小型犬は歯周病のリスクが高いわんちゃんです。

歯周病も歯肉炎→軽度歯周炎→重度歯周炎と進行します。

早い段階の歯肉炎のうちに対処すれば歯周病は治すことができます。

1歳ぐらいの時に歯科健診を受けることをぜひおすすめします。