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定期的な歯科処置(歯石とり)のすすめ

皆さんこんにちは。たるのどうぶつ診療所の獣医、樽野です。
この記事をご覧いただいている皆さんは、わんちゃんの歯やお口の健康に関心がある方だと思います。
そんな方が、わんちゃんの歯とお口の健康を守るためにすることは実は単純です。

それは

これだけです。
もちろん様々な制限があり難しいこともあります。一方、これができなければ歯を失うリスクがあると考えてください。

これらの中から、今回は「定期的な歯科処置」についてお話しします。

定期的な歯科処置について

まず歯科処置という言葉ですが、当院では歯周病の治療のために行う一連の麻酔・検査・処置を歯科処置と言っています。いわゆる歯石除去・歯石取りは、この一連の流れの中の一部となります。

なぜ「定期的な歯科処置」が必要かというと、次の4つの理由が挙げられます。

  1. 病気の兆候に早く気付くため
  2. 病気の診断のため
  3. 病変の治療のため
  4. 日々のブラッシングや処置の評価のため

理由① 病気の兆候に早く気付くため

病気の兆候に早く気付くことは、どんな病気においても重要と思います。
歯周病は1~3歳のわんちゃんの8割以上に見られます。そして歯周病は進行性の病気ですので、時間の経過につれ進行していき、やがて重度歯周病になります。よって、1~3歳の時に初期の歯周病の兆候を把握して対策を行うことで、歯を失うという結果を避けられます。重度になってから対策を行うのでは遅いのです。
犬の歯周病の進行度合い

日頃処置をしていて痛感することは、「もっと早く来てくれていれば、歯を残せて痛い思いをしなくて済んだのに…」ということです。そういう方でも歯科処置をして、その後わずかに残った歯の歯磨きを頑張られて十分に維持できているのです。非常にもったいないと、いつも思います。

では、どれぐらい早くにすればいいかというと、最初の歯科処置は1~3歳のうちに受けてください。

かかりつけ医から「まだ大丈夫ですよ」と言われても、ちょっと待ってください。麻酔をかけた状態でレントゲンとプロービング(歯周ポケットの検査)をしましたか?それは、聴診器を当てる事もせずに心臓は問題ないですよと言うようなものです。大丈夫かどうかは検査をしてみないとわからないのです。

どの年齢、どんな口の状態でも、気になることがあればすぐに歯をしっかり見てくれる獣医さんに相談してください。最悪歯は残せなくても、わんちゃんの苦しみを取ってあげることはできます。

理由② 病気の診断のため

病気に早く気が付いたら病気の診断をします。同じ歯周病でも、治療すれば元に戻る歯肉炎から、抜歯しか治療の選択肢がない重度の歯周炎まで様々です。
それが、42本ある歯の68本ある歯根(歯の根っこ)の全周360度のどこに病変があるのか?さらに、歯周病を治せるかどうかに影響する歯槽骨の吸収が、どのような形態になっているか?
もし、歯周病をできる限り治したいと思うのであれば、これらを正確に把握しなければいけません。
そのためには、麻酔をした状態でレントゲンを正確に、そして必要に応じて角度を変えて撮影すること。適切にプローブを使用して歯周組織の検査をすること。場合によってはボーンサウンディングという骨の形態の把握をすること等が必要になります。

当院では以下のようなチャートに検査結果を記録しています。
歯周検査表

理由③ 病変の治療のため

検査によって把握した病変は治療をしなければ何の意味もありません。
定期的な歯科処置に疑問を持たれる方の中には、歯磨きだけで病気を防げると思われる方もいるかもしれません。自分は今まで歯医者に行ったことがないという方も稀にいるかもしれません。たしかに、少ない割合ですが歯磨きをしていなくても歯周病になっていないわんちゃんもいます。しかしながら、頑張って歯磨きをしていても、奥歯などの歯磨きしにくい場所に病変ができます。

人間の歯について、8020運動という運動をご存知でしょうか?80歳までに20本の歯を残しましょうという活動です。人の歯は何本あるかご存知ですか?答えは、親知らずを含めて32本です。ということは、人でも老齢期には約6割の歯が残すことが目標ということです。人より歯磨きができにくいわんちゃんは、日々のケアだけで全ての歯を残すのが難しいのも頷けますね。よって、日々上手に歯磨きをしていても、ケアが届きにくい部分には汚れが蓄積します。そこが病気になっているので、治療するために定期的な処置が必要となります。
歯周病の犬

この子は3年前に当院で歯科処置をしました。日頃から飼い主様が歯磨きを上手にされているので、3年経っても口臭はほとんどなく、概ね歯ぐきも健康な状態に見えます。このような子でも、どうしても犬種や口の状態、歯周病のグレード(なりやすさ)によって悪いところが出てきます。この子は下の奥歯の内側が歯石が溜まり、歯ぐきが痩せていました。
ただ、幸いなことに病変は軽度でしたので大がかりな処置は必要ありませんでした。
歯周病の犬

また、歯周病において病院の役割は、飼い主様がきれいにできない部分をきれいにすることにあります。当院ではマイクロスコープ(歯科用顕微鏡)を用いて、肉眼では観察できない微細な部分の小さな歯石も取り残さないように処置を行っております。
マイクロスコープについては以下のページもご参照ください。
動物歯科ページ
歯周病の犬

拡大してみると、白く濁っている歯石が多数残っていることがわかります。また、歯と歯の間にも歯石が付着し、歯肉の軽度退縮も見られます。こういう汚れを残すとすぐに歯石が付きやすかったり、歯周ポケットが改善されなかったりします。多くの病院で歯石取りはしていますが、このように
見えないところをいかにこだわっているかが一番大事な部分になります

理由④ 日々のブラッシングや処置の評価のため

これは、現在の歯周病の病態把握=診断のことです。
歯周病であるという診断は、無麻酔でも可能な場合もあります。ただし、「どの歯なのか」「歯のどこの部分なのか」「どの程度悪いのか」に対する診断は、麻酔をしていないとできません。何の病気がどの程度悪いのかを確認せずに、治療はしませんよね。

さらにもう一つ。歯科処置後に、状態が悪かった部分を飼い主さんが頑張って歯磨きをした結果の評価も重要です。治ったかどうかの確認をせずに治療を評価することもできません。飼い主さんも、歯磨きを頑張った結果は気になりますよね。

写真はある子の処置前(左)と処置後半年(右)の状態です。
 


矢印の部分の歯槽骨が整っているのがわかります。また、歯槽骨の吸収も、処置前は歯根の長さの半分ほどですが、処置後には8割ほど改善が見られます。実際に歯ぐきの状態も良好で、歯もキレイです。
このような歯周病の改善は、病院の処置と飼い主さんの日々のブラッシングが組み合わさると得られます。努力の結果が確認できると、より頑張る気持ちが湧いてきますね。
これも、処置から半年後にチェックを行うからわかることです。

まとめ

以上、定期的な歯科処置の目的について説明しました。
最後に、
「じゃあどれぐらいの頻度で歯科処置を受ければよいのか?」ということですが、基本的に1年に一回が基準となります。
小型犬でブラッシングができないなどリスクの高い場合は、半年に一回の歯科処置をお勧めする場合もあります。
わんちゃんのお口の健康を大事にされるなら、定期的な歯科処置を受けるようにしましょう。

この記事を書いた人
獣医師 樽野謙太(たるのどうぶつ診療所 院長)
獣医師 樽野 謙太 /
たるのどうぶつ診療所(院長)

鳥取大学2008年卒、岡山県内の動物病院を勤務、2014年たるのどうぶつ診療所を開院。 動物歯科診療をはじめ、ワクチン予防接種や一般的な動物診療など幅広く診察を行っています。 治療を通してわんちゃん・ねこちゃんとのより良い関係を築いてほしい。 そのような想いをもってより良い獣医療の提供に努めています。
資格 獣医師免許
日本小動物歯科研究会レベル4認定
ペット栄養管理士
詳しいプロフィールはこちら
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