*閲覧注意:治療の途中の画像があります。気分の悪くなる方はご覧にならないようにしてください。
日々多くの病院で歯石取りが行われていると思います。
当院にいらしたことのない方でもこの記事を読まれているということは歯石取りを経験された、もしくはこれから歯石取りをしようという方もいると思います。
そこで質問です。
皆さんは歯石取りをしたあと、どのようなお口の状態を目指すのかを明確にイメージできるでしょうか?
恥ずかしながら、私も以前は歯がきれいで飼い主様が喜ぶイメージしかありませんでした。
このイメージで歯石取りをしていたころは頑張って処置したのに一か月後にはお口がまた臭うようになったり、一年後には元通りよりも悪くなり歯がグラグラという事がおこっていました。
なぜそのようになってしまったのか?
それはきれいな歯をイメージしていたからです。
・・・・・?
実はほんとうに大事なのは、引き締まって健康的な『歯ぐき』のイメージです。
なぜなら、「歯周病」は『歯の周りの病』だからです。
では歯の周りとはどこでしょうか?
そうです、お口をみて歯の周りにあるのは『歯ぐき』ですよね。
お口のイメージとして「歯が命」みたいなキャッチフレーズが思い浮かぶぐらい『歯』に目が行きがちです。
上の写真でも歯が汚れているのはすぐに気が付くと思います。
でも大事なのは実は歯の周りの『歯ぐき』と『歯槽骨』です。
とくに獣医師としてイメージするのはその歯ぐきの下の骨、歯の根っこの周りにある『歯槽骨』です。
もちろん骨は目では見えないので実際はレントゲンで確認します。
このレントゲンは上の写真と同じ場所です。
外から見ただけでは歯の根っこの周りの骨が溶けていることは気づきません。(黄色の線)
骨が溶けていることがわからなければ治療もできないのです。
治療後のイメージをするにはまず今の状態をイメージできる事が必要です。
10年ぐらい前の私はレントゲンもプロービングもボーンサウンディングもしていなかった(知らなかった)のでこれができていませんでした。
治療はここからです。
実際このような状況を治療するには何をするか
ポイントは2つあります。
①歯の根っこの周りの汚れを歯を傷めないようにほぼすべて取り除く
②再びこのような状況にならないように環境を整える
順に説明するとまず、歯周病の原因はプラークです。
プラークはばい菌たちとばい菌が作り出した「ねばねば」です。(別の機会に詳しく説明します)
皆さんが歯ブラシをする前に歯がザラザラしていますよね。それがプラークです。
それが増えると上の写真の上あごの大きな歯の前の小さな歯の根元にあるような白い塊に見えてきます。
骨が溶けている状況では歯の根っこの周りにプラークとその足場になる歯石が付いています。
それを取り除くことが治すためには最も重要です。
この子も根っこを観察すると下の〇で囲ったところに歯石が付いているのが見えます。
具体的な治療はまた改めて別の機会に紹介します。
こうして徹底的に根っこの周りをきれいにして歯ぐきと骨が治る環境を整えたら、次はそれをキープすることです。
それが②の環境整備です。
その病変ができたということは、今までと同じではまた病変ができるということです。
しかも、原因となるプラークは瞬く間に増加します。
プラークが付きやすい要因をプラークリテンションファクターと言います。
この症例ではとなりの歯と隙間が狭くてプラークが堆積したことが一因となっていました。
大事な大きな歯を残すために小さな隣の歯は抜歯をしました。(片側の根っこの半分の骨が溶けて重度歯周炎でもあったため)
見えている部分の歯石を除去することも、プラークリテンションファクターを取り除くことにあたります。
必ず①を行ったうえで見えるところの歯石取りをすることが重要なのです。
処置後約半年でお口の状態のチェックと歯科処置を行いました。
このように歯ぐきが引き締まっています。
飼い主様が頑張って歯磨きをされているので歯もキレイですね。
この状態では口臭はほとんどありません。
そしてレントゲンでは(左のレントゲン画像)
矢印の部分の骨が治っています。
この状態をキープできれば抜歯や顎の骨折は避けられそうです。
歯科処置(歯石取り)をした後頑張ってこのようないい状態をキープしてくれていると本当にうれしくなりますね。
どうですか?
歯石取り改め、「歯周病治療」のイメージが少しは変わったでしょうか?
動物の歯科治療はまだまだ発展途上の分野です。
同じ歯石取りでも動物病院によってやっていることは大きく違います。
納得がいくまで説明をしてくれる病院でぜひわんちゃんのお口の健康を維持する治療を受けてくださいね。