歯の変形が原因となった歯周病
2021年7月30日
本症例の記録
犬種:トイ・プードル
性別:オス
年齢:2歳7か月
体重:2.7㎏
- 病名:dens invaginatus :歯内歯 を疑う エンド・ぺリオ病変の疑い
- 処置:抜歯 スケーリング
- 処置時間:1時間
- 麻酔時間:1.5時間
- 麻酔状態:良好
- 痛みの管理:局所麻酔 NSAIDs
歯内歯について
歯の変形は、日常の動物歯科診療で比較的よく見られます。多くは歯根(歯の根っこ)の変形、癒合根や歯根の湾曲、過剰な歯根など問題のないものです。
しかし、下の奥歯が大きく変形している場合は歯の神経が外部と交通してしまい、感染を起こし、根っこの先に病巣を作ることがあります。
このような歯を「des invaginatus:歯内歯」と呼ぶと記載があります。(Wiggs’s Veterinary Dentistry より)
人の歯内歯は、歯の表面が歯の内部に明らかに陥入し、歯の中に歯を作っているように観察されます。このような構造のせいで、虫歯の原因になりやすいと言われています。
ただし犬の場合、確かに歯の中の歯髄の走行が異常であることは観察されますが、エナメル質が陥入している様子はレントゲン上で観察されないように思います。どちらかというと、歯の形成の際に根分岐部付近で変形が起きて、歯髄が開放している病態に思えます。
この病因に関しては、まだはっきりわかっていません。
いずれにしても神経に感染が起きると、歯の根っこの先に病変ができます。
また、根っこの先にできた病巣から歯の根っこを遡って、広範囲に歯槽骨の吸収が起きる事があります。
人では虫歯から神経に感染が起きて、同様の病変が起きることがあります。
症例紹介
この症例は比較的若齢でしたが、部分的に歯ぐきの状態が悪く、処置の前から歯根の変形が疑われたため処置を行いました。
悪いところの歯茎の写真です。
見慣れているとわかるのですが、歯の形がおかしいです。
また歯ぐきの状態も悪く、歯ぐきの縁から離れたところから膿が出ています。
全身麻酔をかけてレントゲンを撮りました。
本来ならハの字になっている根っこが、お互いに寄っています。
また歯の周囲全体的に骨が溶けて、黒い部分が広くなっています。
歯の根っこの先には、丸く黒く骨がない部分ができています。
隣の歯と比べると根っこの周りの状態が違うのがわかります。
下のは違う子のレントゲンですが、本来の歯の形はこのような感じです。
歯の変形が原因となっている場合は基本的に抜歯となります。
歯の神経とどこで繋がっているかがわからないので、神経をとる処置をしても、どこかから膿が出てくる可能性が高いからです。
ただ
残せる可能性が0ではないので、初期に見つけて神経を抜いて詰める治療をする場合もあります。
この子の場合は、歯の根っこの先の病変が歯ぐきまで連続しているため、残せる可能性はかなり低いと判断しました。
よって、この子は抜歯を行いました。
若いわんちゃんでもこのような異常が見られることがあります。
歯をしっかりみている獣医さんであれば、恐らくもっと早い段階でも異常を発見できます。
今後獣医療が発展していくと、ある程度は専門分野が分かれていくのではないでしょうか。
ジェネラリスト(かかりつけ医)は絶対に必要ですが、かかりつけ医以外に専門性のある動物病院も行くようになるのかもしれません。
獣医さん同士の連携がもっとできていくと、動物たちや飼い主さんにもより良い獣医療が提供できる日が来ることと思います。
この治療を担当した獣医師
獣医師 樽野 謙太 /
たるのどうぶつ診療所(院長)
鳥取大学2008年卒、岡山県内の動物病院を勤務、2014年たるのどうぶつ診療所を開院。
動物歯科診療をはじめ、ワクチン予防接種や一般的な動物診療など幅広く診察を行っています。
治療を通してわんちゃん・ねこちゃんとのより良い関係を築いてほしい。
そのような想いをもってより良い獣医療の提供に努めています。
資格 |
獣医師免許
日本小動物歯科研究会レベル4認定
ペット栄養管理士
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