歯磨きができない小型犬の歯周病
2018年9月13日
本症例の記録
犬種:ポメラニアン
性別:メス
年齢:2歳10か月
体重:2.5㎏
- 病名:歯周病
- 処置:抜歯(209)、SRP
- 麻酔時間:1時間30分
- 麻酔状態:安定
- 痛みの管理:メロキシカム、リドカイン
- 備考:当日退院
わんちゃんのお口、隅々までチェックできていますか?
今回処置をさせていただいたわんちゃんは、
前の方の歯は比較的きれいだったのですが、後ろの方の歯が歯周病で抜歯が必要になったわんちゃんです。
ポメラニアンやチワワなどの顔が小さいわんちゃんは、一番後ろの歯と頬の内側にほとんど隙間がないことも多いです。そのような子は、その部分に歯垢が滞留しやすく、歯周病になっていることがあります。
この部分は頑張って唇を広げて見ないと観察できません。この子のように前の方の歯が比較的きれいだと、歯周病の発見が遅れる事があります。
幸いこの子は定期的に当院を受診されていましたので、第四前臼歯という大事な上の歯を失う前に、処置をすることができました。
小型犬を飼われている方はぜひ定期的にチェックをしてもらいましょう。
今回処置を行ったポメラニアン
今回のわんちゃんはまだ2歳ですが、歯周病がみられました。
犬歯に歯肉炎がありますが、歯石はごく軽度です。しかし奥歯の歯茎は腫れて、赤黒くなっています。
また、歯石も多く、歯と歯茎の隙間に白いねばねばした歯垢がついています。口臭は軽度で、近づいて臭わないと感じない程度でした。
麻酔をかけて、プロービングで歯周ポケットの深さをチェックしてみました。
この部位で約5㎜の歯周ポケットがありました。
また、レントゲンは分かりにくいですが歯槽骨の垂直骨吸収が見られます。近心口蓋根の歯根長の2/3以上に及んでいます。
写真の右側の歯の、根っこ周りの骨が溶けている状態でした。わんちゃんの場合、特に写真左側の歯が大切です。
この子は、歯磨きができないわんちゃんでした。
右側の歯を残しておくとさらに歯周病が広がり、左側の歯がダメになってしまいます。その為、右側の歯はぐらついてはいませんでしたが、今後のことを考えて抜歯をすることにしました。
治療方法について
まず、局所麻酔を行います。
歯石を取った後、歯と歯肉の付着をメスで切開します。この歯は根っこが3つある「三根歯」と呼ばれる歯です。それぞれ1つの根っこになるよう、歯を切っていきます。
歯周病が重度の場合、歯を分割するだけで根っこがグラグラしますので、そのまま抜去します。
歯周病がほぼない歯の根っこは、「エレベーター」と呼ばれる器具でグラグラするまで歯を支える靭帯を切っていきます。
全部の歯が抜けたら、抜いた穴をきれいにして歯ぐきを寄せて傷を閉じます。
他の歯も歯石を除去し、歯肉の裏側の歯石などを取りました。しっかり研磨して歯石の再付着を防いでいます。
最終的にはこのようになっています。
ちなみにこの子は7か月の時に、歯並びの調節の為に上の前歯は左右一本ずつ抜いています。
今後について
本来であればこれ以上歯周病が進行しないように、日常の歯磨きが必要です。
ただ、今のところこの子は口の周りを触ると怒るそうなので、歯磨きはできないとのことでした。
そこで、
効果は低くても今できる事をするために、歯磨きガムを試してもらうことにしました。
歯磨きガムに関してはまた改めて詳しくご紹介しようと思いますが、使い方・選び方を理解して使えば、ある程度の効果は期待できます。
特に今回のように奥歯だけが汚れやすい犬は、歯ブラシと併用することでより効果的です。
ちなみに、この子は「オーラベット」のXSを試してみてもらう予定です。
まとめ
- 小型犬は、若い時でも歯周病になっている場合があります
- こまめに定期健診に通い、歯周病のチェックが必要です
目に見えている部分が問題なくても、実は見えていない部分で歯周病が進行している場合があります。奥歯もしっかりとオーラルケアを行うことが大切です。
歯磨きが難しいわんちゃんの場合でも行えるケアがありますので、お気軽に当院までご相談ください。
わんちゃんの歯周病について、詳しく知りたい方は以下のページもあわせてご覧ください。
わんちゃんの歯周病について
この治療を担当した獣医師
獣医師 樽野 謙太 /
たるのどうぶつ診療所(院長)
鳥取大学2008年卒、岡山県内の動物病院を勤務、2014年たるのどうぶつ診療所を開院。
動物歯科診療をはじめ、ワクチン予防接種や一般的な動物診療など幅広く診察を行っています。
治療を通してわんちゃん・ねこちゃんとのより良い関係を築いてほしい。
そのような想いをもってより良い獣医療の提供に努めています。
資格 |
獣医師免許
日本小動物歯科研究会レベル4認定
ペット栄養管理士
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犬・猫の歯周病について
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