新型コロナウイルスの影響で子犬を新しく飼い始めたという話もあるようですね。
今日の症例は乳歯の晩期残存(乳歯遺残)の子です。
乳歯の晩期残存は乳歯と永久歯の生え変わりの時期に乳歯が抜けるのが遅れる問題です。
この問題は非常に多い印象がありますが、正確な発生率は不明です。
圧倒的に小型犬に多い問題ですので小型犬を飼い始めた方は気を付けてください。
最近は多くの病院で乳歯抜歯をされることが多いのでしょう。大人になって乳歯が残っている子は少なくなった印象です。
ただ、乳歯を抜くのが遅かったのか不正咬合になっている子はよく見かけます。
多くの場合適切な時期に乳歯を抜いてあげれば不正咬合は防げるので生後5~7か月の頃はこまめに乳歯の状態をチェックしましょう。
どれが乳歯かわかりますか?
上のあごと下のあごの犬歯の乳歯が残っています。
上のあごの犬歯の永久歯は乳歯の後ろに生えます。
また下の犬歯の永久歯は乳歯の内側に生えます。
このような位置です。
内側に生えるのでこのまま伸び続けると上のあごに永久歯の犬歯が刺さってしまいます。
この子はすでに上の歯茎に当たって傷ができていました。
このまま永久歯が伸びればさらに深い傷になると思われます。
ちなみにこの子の場合乳歯の問題と他にわずかですがクラスⅢ不正咬合が見られます。
*下顎の1番の切歯のみが反対咬合なのでクラスⅠとも思われますが、クラス1では顎の長さは正常という定義ですのでおそらく第三切歯の位置関係などから下顎が相対的に長いクラスⅢとしています。
乳歯を抜くタイミングですが個体差が多いため一概には言えません。
当院では犬歯の乳歯の場合
①永久歯が生え始めて2週間ほどしても乳歯が抜けない場合
②永久歯が乳歯の長さの2/3以上伸びても抜けない場合
③犬種にもよるがおおよそ7か月を過ぎても乳歯が残っている場合
を基準としています。
また当院で避妊手術や去勢手術をされる場合は乳歯抜歯のタイミングに合わせてそれらの手術の日程を決めます。
基本的には下のあごの乳犬歯が先に抜けるため、下の乳犬歯が先ほどの基準に達した場合は上の乳歯はそれに合わせて早めに抜歯することになります。
乳歯の抜歯はまず
・局所麻酔で神経ブロック
・レントゲンを撮って乳歯の曲がりや吸収度合いを確認する
・エレベーターという器具を使い乳歯の頬側の骨を乳歯からはがす
・エレベータを乳歯の前の方に差し込んでひねって乳歯を脱臼させる。
・動揺が不十分であれば周囲の靭帯を切るようにエレベータを挿入する
・抜歯鉗子で抜く
・根っこが折れて残ったら歯肉切開をして骨を削って除去
・歯肉を縫合する
乳歯を抜く目的は今までお話してきた不正咬合の予防ともう一つ歯周病を予防する目的でも行います。
犬歯の乳歯が残っている場合永久歯との隙間に汚れが付着しプラーク(歯垢)が付きやすくなります。
歯周病の予防の目的だけであれば上記の赤字の残根が多少あっても問題ない場合が多いのですが、
不正咬合を防ぐ目的の場合は必ず歯の根っこは取り除く必要があります。
抜歯前
抜歯後
犬歯の乳歯は見えている歯の長さの2倍ほど長い根っこがあります。
特に吸収されかかっている場合は折れてしまう事もあるので大変です。
このように抜歯後は取り残した根っこがないかの確認をします。
一か月後このように大人の犬歯がしっかり生えて歯ぐきに刺さらない位置まで動いています。
この子の場合この位置で生活上問題はありません。
正常な犬歯の位置関係でいえば下の犬歯はもう少し後ろでしょう。
正常な位置までもっていこうとすれば、矯正が必要になります。
顎の長さが正常であれば適切な時期に乳歯を抜くことで多くの場合犬歯の不正咬合は防げます。
ただし、根っこを残さないことが大切です。
生後6か月ごろはよくチェックをして適切な時期に必要であれば抜歯をしましょう。