犬の歯が折れた(欠けた)
2020年2月4日
本症例の記録
犬種:キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル
性別:メス
年齢:1歳4か月
体重:8㎏
- 病名:単純性歯冠歯根破折
- 処置:抜歯
- 処置時間:30分
- 麻酔時間:50分
- 麻酔状態:良好
- 痛みの管理:局所麻酔 NSAIDs
- 使用機材:
歯科ユニット
エレベーター
抜歯鉗子
歯周外科器具
皆さん、わんちゃんには骨をあげてもいいと思っていませんか?
実はわんちゃんに骨をあげると、歯が壊れることがあります。骨に限らず「ひづめ」や固いおもちゃ、石、一部の歯磨きガム等でも危険です。手で曲げてみて曲がらないようなおやつ、おもちゃ、ガムはあげないでください。
では、実際に硬いものを咬んで歯が割れた子の症例を紹介します。
ひづめを咬んで歯が割れたわんちゃん
この子は、普通にペットショップで売っているひづめをあげていました。喜んで噛んでいたそうです。
健康診断で来院された時にチェックすると、このように右側の上の奥歯が折れていました。
典型的な平板破折を起こしています。
なお、こちらは左側の正常な奥歯です。
これは奥歯の破折で多くみられるもので、上の歯と下の歯が交互に噛み合わせるために固いものを噛むと、上の歯に外向きの力がかかることが原因です。
この子の場合、折れている破片は一部残っており、その間に汚れがたまっているため、折れてから時間がたっていると考えられました。
また、観察できる範囲では歯髄(神経)が出ていることは確認できませんでした。外歯瘻や内歯瘻も見られませんでした。
破折片の内側で歯髄が出ていた場合は重度の痛みがあり、目の下が腫れたりすることが考えられます。
また歯髄が出ていないとしても、歯髄までの象牙質が薄い場合は細菌感染を起こすことがあります。
象牙質が出ていたり、歯髄が近い場合はやはり痛みがあると思われます。
この子の場合は破片が歯の根っこの付近、歯肉の奥まで達しているため、そこから歯周病がひどくなることもあります。
この場合の治療の選択肢としては、大きく分けて以下の2通りになります。
- 歯を修復して残す
- 抜歯
「①歯を修復して残す」場合
メリット
- 歯を残してあげられる
- 奥歯の機能を残すことができる
- 見た目も正常に近い状態にしてあげられる
- 対側歯の汚れが付着しにくくなる
デメリット
- 100%治せるわけではないので経過観察(レントゲンでのチェック含む)が必要
同じく歯が割れたわんちゃんで、歯を残す治療を選択した事例もご紹介しています。ご興味のある方は以下のリンクからご覧ください。
詳しくはこちら
「②抜歯」の場合
「②抜歯」の選択肢の場合、「①歯を修復して残す」とはメリット・デメリットが逆になります。
今回は飼い主さんといろいろご相談した結果、抜歯となりました。
この選択になった一番の要素は、犬種がキャバリアという事です。
キャバリア(キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル)は、ACVIMの僧房弁閉鎖不全症のステージングにおいて、生まれながらにしてステージ1に入っています。
つまり、将来心臓病になる可能性が高いということです。
歯を残す治療をしたとして、数年後に問題が出てくることもあります。そうなったときに心臓が悪い可能性が他の犬種より非常に高いため、抜歯を選択しました。
麻酔をかけて状態を確認したところ、神経は出ていませんでした。見えていた割れた欠片は、この一部まで達していました。
処置後も問題なく過ごしていますが、残念ながら右の奥歯では噛めなくなりました。
- わんちゃんの歯は主に食べ物を飲み込める大きさに切り裂くためにあります。ですのでドライフードなど小さいものは問題なく食べることができます。
このように歯を壊してしまうケースは非常に多いので、皆さんくれぐれも固いものをあげないようにしましょう。
この治療を担当した獣医師
獣医師 樽野 謙太 /
たるのどうぶつ診療所(院長)
鳥取大学2008年卒、岡山県内の動物病院を勤務、2014年たるのどうぶつ診療所を開院。
動物歯科診療をはじめ、ワクチン予防接種や一般的な動物診療など幅広く診察を行っています。
治療を通してわんちゃん・ねこちゃんとのより良い関係を築いてほしい。
そのような想いをもってより良い獣医療の提供に努めています。
資格 |
獣医師免許
日本小動物歯科研究会レベル4認定
ペット栄養管理士
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破折について
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