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歯科治療事例
Case

クラス1不正咬合 右下顎犬歯の舌側転移の矯正

本症例の記録
犬種:スタンダード・プードル
性別:メス
年齢:5か月
体重:12.6㎏
  • 病名:不正咬合 クラス1
  • 処置:矯正 インクラインキャッピング
  • 処置時間:1時間
  • 麻酔状態:良好
  • 使用機材:
    コンポジットレジン

矯正を行ったわんちゃんのご紹介です。

右下の犬歯が乳歯の頃から舌側に転移しており、上顎に当たっていました。
永久歯に生え変わった際もやはり舌側に転移して萌出してきたため、上顎に当たっています。



いわゆるベースナロウという状態です。
このような不正咬合の治療として、永久歯が萌出しきる前に外科的矯正という方法もあります。
麻酔をかける他の目的(避妊手術など)があれば外科的矯正を一緒に行うのですが、この子は避妊手術をする予定はありませんでした。

また、舌側転移の程度がごく僅かであったため、うまくいけば干渉せず麻酔をかけなくてもよい可能性もありました。
そのため、外科的矯正は行わずに経過をみていました。

しかし、やはり上記の写真のように永久歯が干渉してしまったため、治療を行うことになりました。

治療の選択肢

下顎の犬歯が内側に寄って生えて、上顎に当たる場合の治療の選択肢として、

  1. 下顎犬歯の間に伸ばす力をかける矯正器具を設置する矯正
  2. インクラインプレーンという方法(レジンというプラスチックで上あごに矯正器具をつける)
  3. インクラインキャッピング(レジンで歯を伸ばして矯正)
  4. 歯肉を切除する
  5. ボールを咬ませて遊ぶ方法
  6. 歯を切って短くする方法
  7. 抜歯
などがあります。

今回は、
以上のことを考慮して、③のインクラインキャッピングによる矯正を行いました。

インクラインキャッピングによる治療

麻酔をかけて口腔内をチェックします。
犬歯が接触する上顎の部分は、このようにへこんでいます。



動かす幅はこれだけです。



下の犬歯に、このようにレジンを付けて長くします。



この時のポイントは、傾きは20度以内にします。

また、先端の位置が歯ぐきより外側にくるようにします。
さらに、、まっすぐ伸ばしてしまうと第三切歯に当たるので、噛む際に常に第三切歯と上顎の犬歯の間をキープするように、弧を描きます。

歯肉にあたる部分はできるだけ平滑にします。
この時は少し頬舌方向にカーブが付きすぎています。(まっすぐな方が良いと思われます。)

続いて、反対の下の犬歯も処置を行います。



右の下顎の犬歯に外向きの力がかかった場合、顎ごと右方向に動いてしまって、正常な犬歯が上顎に当たってしまいます。これを防ぐために設置しました。

レントゲンでは、歯根の先端がやや開いている状態です。



また、セメント質とエナメル質の境になる部分が完全には出ておらず、歯冠は今後少し出ると思われます。
歯質も薄く、歯も脆いものと思われました。

コンポジットレジンによる歯冠作成

今回はコンポジットレジンを使用して、歯冠を作成しました。

強固につける際にはエナメル質をエッチング(薬品でザラザラにする)して接着するのですが、
以上のことを考慮してエッチングをせず、汚れを取るのみでコンポジットレジンを築盛しました。

想定通り、手術から10日後の遊んでいた際にレジン部分が取れたため、確認を行いました。



歯の先端は歯肉の外側に出ていました。位置としてはやや前に出ている状態です。

治療後の経過

延長した歯冠が当たっている部分は傷になっています。



○で囲んだ位置にあった先端が、傷の位置まで移動しています。
矯正を行うときは、矯正力をかけていい位置まで来た際にすぐに矯正力を取ってしまうと、歯は元の位置に戻ろうとしてしまうことがあります。
今回の方法では、良い位置まで歯の先端が来れば上顎の歯肉によって適切な位置への矯正力が働くようになるため、これ以降追加の処置は必要ありません。

延長した歯冠を除去してから2週間経過した頃には、このようになっています。



歯肉への障害は無い位置になっています。



反対と比較すると僅かに近心(前の方)に傾斜しています。
延長した歯冠の方向を僅かに近心に傾けていれば、より良かったと思われます。

ご協力いただいた飼い主様とわんちゃん、ありがとうございました。

この治療を担当した獣医師
獣医師 樽野謙太(たるのどうぶつ診療所 院長)
獣医師 樽野 謙太 /
たるのどうぶつ診療所(院長)

鳥取大学2008年卒、岡山県内の動物病院を勤務、2014年たるのどうぶつ診療所を開院。 動物歯科診療をはじめ、ワクチン予防接種や一般的な動物診療など幅広く診察を行っています。 治療を通してわんちゃん・ねこちゃんとのより良い関係を築いてほしい。 そのような想いをもってより良い獣医療の提供に努めています。
資格 獣医師免許
日本小動物歯科研究会レベル4認定
ペット栄養管理士
詳しいプロフィールはこちら
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