キャバリアのかみ合わせ
2018年10月5日
本症例の記録
犬種:キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル
性別:メス
年齢:6か月
体重:5.3㎏
- 病名:乳歯遺残、不正咬合クラスⅢ
- 処置:抜歯(501.504.601.604.704.804)
- 麻酔時間:20分
- 麻酔状態:安定
- 痛みの管理:メロキシカム
- 備考:当日退院
キャバリアという犬種は皆さんご存知でしょうか?
日本での正式名はキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルと言います。(以下キャバリアとします)
比較的性格がよい子が多く、あどけない表情とよい毛並みを持ちます。
ただ、獣医療に携わる人はどうしても病気の事を考えてしまいますが、病気が多い犬種のイメージです。
今回はキャバリアの子犬のかみ合わせ治療のための乳歯抜歯と、避妊手術を行いました。
当院では避妊手術を希望される場合、乳歯の脱落の状況にタイミングを合わせて、麻酔が一回で終わるようにご提案しています。
この子も下顎の乳歯の脱落遅延があり、乳歯抜歯を行った子です。
下顎の永久犬歯が乳歯と同等の長さになっても乳歯の脱落が起きていません。
このままだと永久歯が上顎の歯茎にあたって穴が開いてしまいます。
左の上顎の乳犬歯も破折(折れて)います。
前歯の乳歯も残っており、永久歯の位置が内側に生えてしまっています。
本当は前歯の事を考えるともっと早く乳歯を抜いたほうが良いのですが、もともとこの子はアンダー気味の咬合(クラスⅢ 不正咬合?)※ であったので、犬歯のタイミングまで様子を見ています。
- アンダーとは下あごが上あごに比べて長く、本来なら上の前歯の内側に下の前歯が来るものが逆になる咬み合わせの事です。
- ブルドッグやフレンチブルドッグ等の短頭種ではアンダーが正常な咬合とされています。キャバリアにおいても情報が少ないですが一部の情報ではアンダーでもよく、成長に合わせて改善すると記載がありました。
この子の歯の異常をまとめると
- 乳歯遺残 切歯、犬歯
- 下顎犬歯の舌側変位
- クラスⅢ不正咬合
- 乳歯の破折
以上になります。
治療の様子
下顎の犬歯は上顎の第三切歯(前歯)の内側にあったので、外科的矯正※ も考えました。
- 外科的矯正:若齢犬において、下顎犬歯などの不正咬合の治療として行う処置。麻酔下で不正咬合がある歯を正常な位置までエレベーターと言う器具で力を加えて移動させ、戻らないように乳歯のかけらで作ったクサビで固定する。
しかし実際に乳歯を抜いて咬合を確認したところ、自然に犬歯の移動が起きれば問題ない範囲と判断しました。
その為外科的矯正は行わず、この症例に関しては乳歯抜歯のみで治療を行いました。
上顎の乳犬歯は歯根の吸収が起こっていたので、時間が経てば抜けていたかもしれません。
翌日退院の際に確認したところ、すでに下顎犬歯はやや外側に変位していました。(顎の位置によるものかもしれません)
治療後の経過
後日避妊手術の傷の抜糸に来られた時の写真がこちらです。
ほぼ犬歯の位置は正常に近いですが、右側の下顎犬歯は前歯と接触しています。
下顎が上顎対して長い為に仕方がないのですが、解消するためには上顎の切歯を抜く必要があります。
現状では生活に支障があるわけではない事と、キャバリアが成長とともに不正咬合が治る場合があるという記載もあったので、経過観察をしています。
今後この接触が続くと歯牙の摩耗が起きる可能性はあるので、その場合は抜歯も検討します。
この治療を担当した獣医師
獣医師 樽野 謙太 /
たるのどうぶつ診療所(院長)
鳥取大学2008年卒、岡山県内の動物病院を勤務、2014年たるのどうぶつ診療所を開院。
動物歯科診療をはじめ、ワクチン予防接種や一般的な動物診療など幅広く診察を行っています。
治療を通してわんちゃん・ねこちゃんとのより良い関係を築いてほしい。
そのような想いをもってより良い獣医療の提供に努めています。
資格 |
獣医師免許
日本小動物歯科研究会レベル4認定
ペット栄養管理士
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詳しいプロフィールはこちら
動物歯科について
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